まつばらの民話をたずねてへようこそ

松原で生まれ育った、昔から伝えられている民話をご紹介します

 

三ツ池の狐

松原の民話第6話(2003年1月)


その二、 赤い笠の狐

 少し古い昔のこと、長尾街道沿いにある三ツ池に『およし狐』という大層美しい狐が住んでいたそうです。この狐、どこで生まれどこで育ったのか、何時からこの三ツ池に住むようになったのか、どれ程に美しいのか確かなことはだれも知らない狐でした。

さて道明寺の縁日の日の出来事でした。長尾街道は相変わらずにぎわっており、特に縁日とあって、娘たちの、着飾った姿と華やいだ声に混ざって、かんざしを帽子の縁に挿して粋って歩いている若者達の姿もありました。こうした道行く人々の姿がおよし狐には余程楽しく写ったのでしょうか、滅多に姿を見せないおよし狐が、土手にチョコリンと座って若者達の姿を眺めていたそうです。これに気付いた一人の若者が、「お前が三ツ池の狐か、美人という噂やが、どれ程美しいかこのかんざしをや与るよってに明日の晩に、人間の姿になって俺の前に現れろ。」といってかんざしをポイッと狐にむけてなげ与えました。

明くる日の晩になって三ツ池の狐は、どこで仕入れたのか、ござの上にご馳走をたんまりと重箱につめて、若者からもらったかんざしを耳の上に、はすかに挿し、緋の長襦袢に、牡丹の花を裾から肩へとちりばめた、見事の着物を身につけて待っていたそうです。

 やがて若者は「狐の奴め、本当に現れるかな、現れなっかたら虎穴にそくど松葉を炊いてやろう」と独り言を言いながらたどりつくと、若者の目に、今か今かと待っている優美な狐の姿が目に写りました。若者はその美しく神々しくさえも感じさせる狐の姿にすっかり夢うつつになって、ござの上に座ると「な、な、なまえを教えてほしい、、、」と初対面の女性に対してのしぐさになって尋ねると、狐はすきとおった声で「およしです」と恥ずかしそうに答えて酒や食事をすすめ、見知らぬ土地の話などを話してくれたりして、夢か幻かの楽しい時が流れました。時は刻々と進みやがておよし狐は若者に「朝が近ずいて参りました。これでおいとまを」と天のしらべを流すように青年に語りかけ、狐の姿でペコリと頭を下げると消え去ったそうです。

 この日から青年は、このおよし狐の虜になって、仕事も忘れて藤井寺、道明寺、滝谷不動と祭りがあればどこでも二人の姿を見るようになりました。どこへいってもおよし狐のとろけるような美しさは評判となり若者は一層嬉しく自慢に思えて、あちらこちらと連れ歩きました。けれども狐は狐、長い時間を人間の姿で過ごす事に疲れ、日に日にやせ衰えていきましたが、若者はおよし狐との生活以外は考える事が出来なくなっておりましたので色々考えた末に、住吉のお祭りで売っている赤い笠を買ってきて、顔が狐に返っても気付かれないようにと、笠を付けて出歩く事になりました。こうした生活が何ヶ月か過ぎたある日、三ツ池の土手に赤い笠を付けてやせ細った狐が一匹死んでいたそうです。

大阪府文化財愛護推進委員  加藤 孜子(あつこ)